伝統を守る技術!漁具の紛失を防ぐ・見つける方法
伝統漁法を守るために - 漁具の紛失とその影響
長年培われてきた伝統漁法は、豊かな海の恵みを持続的に活用するための知恵の結晶です。しかし、操業中に大切な漁具を失ってしまうことは、多くの漁師さんが経験されている悩みの一つではないでしょうか。
漁具の紛失は、単に道具を失う以上の様々な影響を及ぼします。まず、新しい漁具を用意するためのコストがかかります。これは経営への大きな負担となり得ます。また、海底に残された漁具は「ゴーストフィッシング」と呼ばれ、意図せず海洋生物を傷つけたり、他の船の航行に支障をきたしたりするなど、海の環境にも悪影響を与えてしまいます。さらに、失くした漁具を探す時間や労力は、本来の漁に費やすべき貴重な時間を奪います。
このような課題に対し、新しい技術がどのように役立つのか、漁具の紛失を「防ぐ」技術と、もし失くしてしまった際に「見つける」技術の二つの側面からご紹介します。
紛失を「防ぐ」技術:どこにあるかを把握する
漁具がどこにあるか、正確に把握しておくことが紛失防止の第一歩です。このために役立つのが、小型の追跡装置です。
GPSトラッカーの活用
陸上でもおなじみのGPS(全地球測位システム)は、漁具の位置を把握するために有効な技術の一つです。小型で防水性のあるGPSトラッカーを漁具に取り付けておくことで、その位置情報をリアルタイムまたは定期的に確認することができます。
- メリット:
- 漁具が仕掛けられている正確な場所を記録できます。
- もし流されてしまっても、現在位置を追跡できる可能性があります。
- 比較的安価で、スマートフォンやパソコンから位置情報を確認できる製品が増えています。
- デメリット:
- 水深が深い場所ではGPS信号が届きにくくなります。
- 電源(バッテリー)が必要で、定期的な充電や交換が必要です。
- 衝撃や塩水に耐えられる、漁業用の堅牢な製品を選ぶ必要があります。
ビーコン(発信機)の活用
GPSが使えない深い海中では、ビーコンと呼ばれる水中発信機が有効な場合があります。音波や電波を使って位置情報や信号を発信するもので、専用の受信機を使ってその位置を特定します。
- メリット:
- GPSが届かない海中でも使用できる製品があります。
- 特定の漁具をピンポイントで探し出すのに役立ちます。
- デメリット:
- GPSトラッカーに比べて高価な製品が多い傾向があります。
- 専用の受信機が必要になります。
- バッテリーが必要です。
これらの技術を漁具に設置することで、「うっかり場所が分からなくなった」「仕掛けが流されてしまったようだ」といった状況でも、早期に異変を察知し、対応できるようになります。
紛失した漁具を「見つける」技術:海底を探索する
もし漁具が海底に沈んでしまった場合、それを効率的に探し出すための技術も登場しています。
ソナー(水中音波探査装置)の活用
ソナーは音波を使って海底の地形や物体を探査する装置です。魚群探知機もソナーの一種ですが、より高機能なソナー(サイドスキャンソナーなど)を使うと、海底に沈んだ漁具の形を捉えることができる場合があります。
- メリット:
- 広範囲の海底を効率的に探索できます。
- 視界の悪い海中でも使用できます。
- デメリット:
- 装置が高価な傾向があります。
- 画像の解析に慣れが必要です。
- 探査できる水深に制限がある場合があります。
小型水中ドローンの活用
近年、手軽に扱える小型の水中ドローンが登場しています。カメラを搭載しており、水中の様子をリアルタイムで確認できます。浅い場所であれば、水中ドローンを使って沈んだ漁具を目視で探し出すことも可能です。
- メリット:
- 海底の状況を直接目で見て確認できます。
- 人が潜るよりも安全に探索できます。
- 比較的安価な製品も出てきています。
- デメリット:
- バッテリーの稼働時間に制限があります。
- 流れの速い場所や、ある程度の水深になると使用が難しくなります。
- 操作に多少の慣れが必要です。
これらの探索技術は、失くした漁具の回収率を高め、ゴーストフィッシングの防止にも繋がる可能性があります。
導入のステップとコスト感
これらの技術導入にあたっては、初期投資や操作への不安があるかもしれません。
GPSトラッカーや簡易的なビーコンであれば、数万円から十数万円程度で購入できるものがあります。水中ドローンも、簡単なものであれば数十万円から入手可能です。高性能なソナーはより高価になる傾向があります。
大切なのは、一度に全てを導入するのではなく、ご自身の漁法や船の規模、そして最も解決したい課題に合わせて、小さく始めてみることです。例えば、最も紛失しやすい特定の漁具にだけGPSトラッカーを付けてみる、といった形での試験的な導入も考えられます。
操作についても、最近の機器はスマートフォンと連携できるものが多く、直感的に操作できるよう工夫されています。販売店やメーカーに相談し、ご自身でも扱えそうか確認してみると良いでしょう。
まとめ:技術で漁具を守り、伝統漁法を持続可能に
漁具の紛失は、漁師さんにとって経済的、時間的な負担となるだけでなく、海の環境にとっても無視できない問題です。GPSトラッカーやビーコンで「防ぐ」技術、ソナーや水中ドローンで「見つける」技術は、これらの課題を解決する可能性を秘めています。
これらの新しい技術は、決して伝統漁法を否定するものではありません。むしろ、長年培われてきた漁の知恵と組み合わせることで、大切な漁具を守り、操業をより効率的かつ安全にし、そして豊かな海を未来世代に引き継いでいくための強力な「道具」となり得るのです。
技術の導入に不安を感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、まずは情報収集から始め、ご自身の漁に役立ちそうな技術がないか、検討してみてはいかがでしょうか。