危険な見回りを減らす!漁船の係留場所を見守る技術の活用法
漁船の係留と岸壁作業、高齢化に伴う課題
漁船の係留は、安全な操業にとって欠かせない作業です。風や波による船体の揺れ、他の船との接触、強風時の係留索の切断など、様々な危険が潜んでいます。特に悪天候が予想される際には、漁船の安全な係留状態を確認するために、夜間や荒天の中を見回りに行く必要が生じることもあります。
しかし、漁師の高齢化が進む中で、こうした危険を伴う見回りや、重労働になりがちな岸壁での作業は、身体に大きな負担をかけるようになっています。また、人手不足により、複数人で確認に行くのが難しい状況も増えているかもしれません。経験と勘に頼るだけでなく、安全を確保し、こうした負担を軽減するための新しい方法が求められています。
ここでは、最新の技術が漁船の係留場所や周囲の安全確認にどのように役立つのか、具体的な技術とその活用方法についてご紹介します。
技術で見守る漁船の安全
経験豊富な漁師の皆様にとって、海の状況を読み、危険を察知する力は非常に重要です。そこに新しい技術を組み合わせることで、見回りや確認作業の負担を減らし、より客観的で確実な安全確保に繋がる可能性があります。
具体的には、漁船の係留場所や船体の状況を離れた場所から確認できる「見守りカメラ」や、気象状況や船の状態の異常を自動で感知して知らせてくれる「センサー」などが有効です。これらの技術は、スマートフォンの普及により、比較的簡単に利用できるものが増えています。
係留場所の見守りに役立つ具体的な技術
1. 見守りカメラ(遠隔監視カメラ)
港や漁船にカメラを設置し、事務所や自宅、あるいは遠隔地から、スマートフォンやパソコンを使ってリアルタイムの映像を確認できるシステムです。
- 仕組み: カメラで捉えた映像を、インターネット回線(携帯電話の回線など)を通じて転送し、離れた場所の端末で視聴できるようにします。
- 漁業での活用:
- 漁船の係留状況や船体の傾き、ロープの張り具合を離れた場所から確認できます。
- 悪天候時でも、危険な場所に行かずに安全な場所から状況を把握できます。
- 不審者の侵入や、船への不要な接触がないかを確認する防犯対策にもなります。
- 過去の映像を記録しておくことで、何か問題が発生した際の状況確認に役立ちます。
- メリット: いつでも好きな時に、場所を選ばずに船の様子を確認できるため、見回りの頻度や負担を大幅に減らせます。特に夜間や荒天時の安全確保に貢献します。
- デメリット: 初期費用(カメラ本体、設置費用など)がかかります。電源の確保(ソーラー発電やバッテリーなども選択肢になります)、インターネット接続環境(携帯電話の電波など)が必要です。設置場所によっては、隣の船や港湾施設のプライバシーに配慮する必要があります。夜間の映像品質は機種によって異なります。
- 導入イメージとコスト感: 最近では、屋外設置に対応した高性能な見守りカメラが数万円から販売されています。設置工事が必要な場合や、録画機能を充実させる場合は追加費用が発生します。インターネット回線費用(携帯電話の通信費など)も継続的にかかります。
2. 各種センサーによる異常検知
潮位、風速、船体の傾き、係留ロープの張り具合など、漁船の安全に関わる様々な状態をセンサーで感知し、異常があった場合にスマートフォンなどに自動で通知してくれるシステムです。
- 仕組み: 特定の物理量(水位、風速、角度、力など)をセンサーが測定し、設定された基準値を超えた場合に、無線やインターネットを通じて警報を発します。
- 漁業での活用:
- 異常な高潮位や急な強風を自動で検知し、早めの対策や避難を判断する材料になります。
- 船体の傾きセンサーで、浸水やバランスの崩れなどの異常を早期に察知できます。
- 係留ロープに設置したセンサーで、異常な張力や緩みを検知し、ロープの切断や船の流出リスクを早期に把握できます。
- メリット: 人間が見回らなくても、システムの側で自動的に異常を監視し、見落としを防ぎます。迅速な情報伝達により、早期に対応できる可能性が高まります。
- デメリット: 設置するセンサーの種類を選定する必要があります。複数の状態を監視したい場合は、複数のセンサーを設置する必要があります。センサー本体の価格や、システム全体の構築費用がかかります。センサーによっては定期的な校正やメンテナンスが必要な場合があります。
- 導入イメージとコスト感: センサー単体は数千円から購入できるものもありますが、複数のセンサーを連携させてシステムとして運用するには、専門業者に相談したり、ある程度のまとまった費用(数十万円など)が必要になる場合があります。シンプルな構成であれば、比較的手軽に導入できるものもあります。
3. 小型ドローンを活用した一時確認
空撮用の小型ドローンにカメラを搭載し、短時間だけ係留場所や船の周囲を飛行させて状況を確認する方法です。
- 仕組み: リモートコントローラーを使ってドローンを操作し、搭載カメラの映像を手元のモニターやスマートフォンで確認します。
- 漁業での活用:
- 離れた場所にある複数の係留場所を効率的に確認したい場合に便利です。
- 船体の上部や、見えにくい場所にある係留ロープの状態などを確認できます。
- 高所からの視点で、周囲の状況を広く把握できます。
- メリット: 人間が立ち入りにくい場所や、高所の確認が安全にできます。手軽に持ち運び、必要な時に使用できます。
- デメリット: ドローンの操作には慣れが必要です。風雨に弱く、悪天候時には使用できない場合があります。バッテリーで稼働するため、使用時間に制限があります。飛行場所や時間、方法については法律や条例による規制があり、事前に確認が必要です。
- 導入イメージとコスト感: 初心者向けの小型ドローンであれば、数万円から購入できます。高性能な機種や、バッテリーなどを揃えるとそれ以上の費用がかかります。
導入を検討する際のポイント
これらの技術を導入する際は、ご自身の漁のスタイルや、係留場所の環境、予算に合わせて検討することが重要です。
- 必要な機能の洗い出し: どのような目的(単に見たいだけか、異常を検知したいかなど)で導入したいのかを明確にします。
- コスト: 初期投資だけでなく、ランニングコスト(通信費、電気代、メンテナンス費など)も考慮します。
- 操作性: ご自身や関係者が無理なく操作できるか、シンプルなシステムを選ぶのが良いでしょう。
- 設置環境: 漁港や船の電源、通信環境(携帯電話の電波状況など)を確認します。塩害対策がされているかどうかも重要です。
- 複数の技術の組み合わせ: 見守りカメラとセンサーを組み合わせるなど、複数の技術を連携させることで、より多角的に安全を確保することも可能です。
まとめ
漁船の係留や岸壁での安全確保は、経験豊かな漁師の皆様の知識と注意力が基本となります。そこに、今回ご紹介したような新しい技術を上手に組み合わせることで、悪天候時のリスクを減らし、見回り作業の負担を軽減し、より安心して漁業を続けることができるようになります。
技術はあくまでツールであり、全てを任せきりにすることはできません。しかし、これらの技術を導入することで、危険な場面での確認作業を減らし、異常の早期発見につなげることが期待できます。ご自身の安全と、大切な漁船を守るために、新しい技術の活用を検討してみてはいかがでしょうか。