水揚げ後の選別・サイズ測定を効率化 漁獲物の負担を減らす技術
漁獲後の重労働を技術で軽減する可能性
長い一日の漁を終え、船が港に戻った後、漁師の仕事はまだ終わりません。水揚げされた大量の漁獲物を、種類やサイズごとに手際よく選別し、計量する作業が待っています。この選別・サイズ測定の作業は、時間もかかり、特に大量の場合には体力的にも大きな負担となります。長年の経験と勘が不可欠な工程である一方で、後継者不足が進む中で、この作業を効率化し、負担を減らすことは多くの漁業現場が抱える共通の課題となっています。
近年、様々な分野で進化する新しい技術が、この伝統的な選別・サイズ測定の作業にも変化をもたらす可能性を秘めています。経験豊かな漁師の皆様が培ってきた「目利き」の技を尊重しつつ、技術がその精度を高め、作業のスピードアップや負担軽減にどう貢献できるのか、その可能性について考えてみたいと思います。
選別・サイズ測定の現状と課題
現在、多くの漁港や漁船で行われている漁獲物の選別・サイズ測定は、主に手作業で行われています。魚種ごとの知識、サイズを見分ける確かな目、そして素早く正確に仕分ける体力と集中力が必要です。
この手作業には、以下のような課題が挙げられます。
- 体力的負担: 重い魚や大量の魚を扱うため、腰や腕に大きな負担がかかります。特に水揚げが集中する時期は、長時間にわたる作業となり疲労が蓄積します。
- 時間と効率: 大量の漁獲物がある場合、選別・測定に時間がかかり、出荷までの時間を圧迫することがあります。
- 経験への依存: 正確な選別やサイズの判断には長年の経験が必要です。若い担い手が育つまでには時間がかかります。
- データの活用: 手作業での計量や記録では、詳細なデータを取るのが難しく、その後の漁獲分析や販売戦略に活かしにくいという側面があります。
これらの課題に対し、技術の導入が有効な解決策となることが期待されています。
技術による選別・サイズ測定のアプローチ
選別やサイズ測定を効率化する技術は、主に「画像を認識する技術」や「センサーを使った計測技術」が中心となります。これらの技術を組み合わせることで、これまで人の目と手で行っていた作業の一部を自動化したり、より正確かつ迅速に行ったりすることが目指されています。
具体的な技術としては、以下のようなものが考えられます。
1. 画像認識・AIを活用した選別・サイズ測定システム
- 仕組み: カメラで撮影した漁獲物の画像をコンピューターが解析し、あらかじめ学習させたデータ(魚種、サイズ、品質など)と照合することで、種類やサイズを判別・測定します。人工知能(AI)がこの画像解析の精度を高めます。
- 漁業での用途: ベルトコンベア上を流れる魚の画像から魚種を判別し、設定したサイズ基準に基づいて自動的に仕分け用のゲートを動かす、魚の全長や体高を自動で測定し記録するなど。
- 導入による効果(メリット):
- 作業スピードの向上: 人手よりもはるかに速く、大量の漁獲物を処理できます。
- 体力負担の軽減: 手作業の量が減り、作業者の負担が大幅に軽減されます。
- 客観性・均一性: 人によるばらつきがなくなり、常に一定の基準で選別・測定が行われます。
- データ蓄積と活用: 処理した漁獲物の種類、サイズ、量などのデータが自動的に記録され、その後の漁獲管理や販売計画に役立てることができます。
- 導入のハードル(デメリット):
- 初期投資: システムの導入にはある程度の費用がかかります。規模や機能によりますが、数十万から数百万円以上の費用が必要となる場合があります。
- 設置場所: カメラやコンベア、コンピューターなどを設置するスペースが必要です。
- 操作やメンテナンス: システムの基本的な操作方法を覚える必要があります。また、定期的な清掃やメンテナンス、ソフトウェアの更新などが必要になる場合があります。
- 対応魚種: 学習データにない魚種や、似た種類の判別精度が課題となる場合があります。
2. センサー技術を利用したサイズ測定
- 仕組み: 重量センサーや光学センサー(レーザーなど)を使って、漁獲物の重さや大きさを非接触または接触で計測します。
- 漁業での用途: ベルトコンベアの途中に重量計を設置して自動計量を行う、特定のサイズ以下を自動で振り分けるゲートと連携させるなど。
- 導入による効果(メリット):
- 正確な測定: 手作業よりも正確な数値データが得られます。
- 作業の簡略化: 計量作業を自動化または補助することで、手間を減らせます。
- データ連携: 測定データを他のシステムと連携させやすい場合があります。
- 導入のハードル(デメリット):
- 測定できる項目が限定的: 基本的に重さや長さに特化しており、魚種の判別には他の技術との組み合わせが必要です。
- 設置環境: 水濡れや振動など、漁業環境に適した耐久性のあるセンサーや機器を選ぶ必要があります。
- 初期コスト: 導入するシステムの規模によって費用は異なります。
導入を検討する際のポイント
これらの技術システムを導入する際は、以下の点を考慮することが重要です。
- ご自身の漁獲物と作業内容: どのような魚種を、どれくらいの量、どのような方法で扱っているかに合ったシステムか。
- 導入コストと費用対効果: 初期投資だけでなく、維持費や電気代も含めたランニングコスト、そして導入によってどれくらい作業が効率化され、人件費や時間の削減につながるか。
- 操作の容易さ: システムの操作は難しくないか、普段技術に慣れていない方でも使えるシンプルな設計か。
- 設置スペースと環境対応: 船上や漁港、作業場に設置できるスペースがあるか。塩分や湿気など、過酷な環境に耐えられる設計になっているか。
- サポート体制: 導入後のトラブルや使い方について、販売業者やメーカーから適切なサポートを受けられるか。
まずは、小規模なシステムや、特定の作業(例えばサイズ測定だけ)に特化した機器から試してみるという方法も考えられます。
まとめ
水揚げ後の選別・サイズ測定は、伝統漁法において長年培われてきた重要な工程です。新しい技術は、この伝統的な知恵や経験に取って代わるものではなく、あくまでそれを「補強」し、作業の負担を軽減し、効率を高めるためのツールとなり得ます。
画像認識やセンサー技術を活用したシステムは、初期投資や操作習熟などのハードルがあるのも事実です。しかし、導入によって得られる作業時間の短縮、体力的負担の軽減、正確なデータに基づく漁獲管理といったメリットは、特に担い手不足が進む現状において、漁業を継続し、より安定させるための大きな力となる可能性を秘めています。
ご自身の漁業現場の状況や課題に照らし合わせ、技術導入の可能性を検討してみる価値は十分にあると言えるでしょう。様々な技術情報を収集し、実際にシステムを見学したり、導入している漁業者の方の声を聞いたりしながら、ご自身の漁業にとって最適な技術を見つけていくことをお勧めします。