潜らずに海底の漁具の状態がわかる!安全と効率を両立する監視技術
海底に設置した漁具の状態、どう確認していますか
長年培われた経験に基づき、海底に設置した網やカゴなどの漁具の状態を推測し、適切なタイミングで揚げることは、ベテラン漁師の皆様にとって最も重要な技術の一つです。しかし、その状態を実際に確認するためには、潜水士による目視確認や、実際に引き上げてみるしかなく、時間も手間もかかります。
特に、荒天時や水温の低い時期など、海中での作業は危険が伴います。また、仕掛けの状態が正確に把握できないために、無駄な出漁をしてしまったり、逆に揚げるのが遅れて漁獲物の状態が悪くなってしまったり、最悪の場合、仕掛けを失ってしまうといったリスクも考えられます。
このような、長年の経験だけではカバーしきれない課題に対し、最新の技術がどのように貢献できるのかをご紹介します。
海底漁具の状態を把握する新しい技術
近年、海の底に設置した漁具の状態を、陸上や船上から離れた場所で確認できる技術が登場しています。これは主に、以下の要素を組み合わせたシステムです。
- 海底に設置するセンサー: 網の張り具合を示す「張力センサー」、水深や水温を測る「圧力・水温センサー」、漁具の動きを捉える「加速度センサー」など、様々な種類のセンサーがあります。これらのセンサーが、海底の漁具に関する情報を収集します。
- 水中通信機: 海底に設置したセンサーが取得したデータを、水中を介して船上や海面に浮かべたブイなどに送るための装置です。水中では電波が届きにくいため、音波を利用した「水中音響通信」という技術が主に使われます。
- 無線通信機: ブイなどで受信したデータを、衛星通信や携帯電話網などを使って、陸上の事務所や自宅のパソコン、スマートフォンのような端末に送信するための装置です。
- データ表示・解析システム: 陸上の端末で、受信したセンサーデータをグラフや数値で確認したり、異常があった場合に警告を受け取ったりできるシステムです。
これらの技術を組み合わせることで、「いま海底のあの仕掛けにはどれくらいの負荷がかかっているか」「水温は何度か」「仕掛けが動いていないか」といった情報を、船上や陸にいながらリアルタイムに近い形で把握することが可能になります。
導入で期待できるメリット
このような海底漁具の監視技術を導入することで、以下のようなメリットが期待できます。
- 安全性の向上: 危険な潜水作業や、悪天候時の無理な確認作業を減らすことができます。
- 作業負担の軽減: 実際に仕掛けを引き上げることなく、状態を確認できるため、日々の見回りや確認にかかる時間と労力を減らせる可能性があります。
- 効率的な操業: センサーデータに基づいて、漁獲に最適なタイミングを判断できるため、無駄な出漁を減らし、燃料費の削減や効率的な資源利用につながる可能性があります。
- 漁具ロストの防止: 仕掛けの異常な動きや、想定外の張力などを早期に検知できれば、漁具が破損・流出して失われるリスクを低減できる可能性があります。
- 漁獲物の品質維持: 最適なタイミングで回収することで、漁獲物の鮮度や品質をより良く保つことが期待できます。
導入にあたって考慮すべき点
一方で、新しい技術の導入には考慮すべき点もあります。
- 初期投資: センサーや通信機、表示システムなど、一連の機器を揃えるためには、ある程度の初期費用が必要となります。
- 維持管理: 機器の電池交換や定期的なメンテナンスが必要です。また、海中という過酷な環境で使用するため、機器の耐久性や故障時の対応も考慮に入れる必要があります。
- 技術的な習得: システムの操作やデータの確認方法など、ある程度の技術的な知識や慣れが必要になる場合があります。導入時のサポート体制なども確認しておくと良いでしょう。
- 設置・回収の手間: 海底へのセンサーや通信機の設置、回収には手間がかかります。漁法や漁場環境に適した方法を選ぶことが重要です。
まとめ:経験に新しい「目」をプラスする
海底漁具の監視技術は、皆様が長年培ってこられた海の知識や漁の経験を否定するものではありません。むしろ、経験から来る「勘」や「判断」を、データという新しい「目」で補強し、より確実で安全な漁業を実現するためのツールとなり得ます。
初期投資や技術的なハードルはありますが、安全性の向上、作業効率化、そして漁獲量の安定や品質向上といったメリットを考慮すると、導入を検討する価値は十分にあると言えるでしょう。まずは、どのようなシステムがあるのか情報収集を始めることから始めてみてはいかがでしょうか。ご自身の漁法に合った、無理なく導入できる技術を見つけることが大切です。